松本克のブログ

国立高校の甲子園出場に関する記事でこのブログに巡り会ったので、その辺りのことが中心になるかな・・・

【自伝】3)りんどう湖置き去り事件…

 あの頃はまだ週休二日など思いも及ばない頃だ。
 土曜日も休みになった上に顎足付きで一泊旅行ができる社内旅行こそ「大名旅行」だった。
 家族同然の同僚たちと大型バスで温泉地に乗り付け、一晩無礼講のドンチャン騒ぎ、翌日、当地のお土産をぶら下げて帰還する、というパターンが一般的だったと思う。


 我が社もその例に漏れず、りんどう湖で2日目の昼食を摂ったということは、那須高原辺りで泊ったことであろう。
 団体旅行で温泉地で目が覚めたとなると、どうしても朝の寝床で一杯やる人間も出て来る。その日の私がどうだったかは覚えていないが、外での昼食ではやったに違いない。


 りんどう湖で昼食。
 湖というと、白鳥の形をした2人乗りの足漕ぎボート。あれはどうしてあんなに進まないのだろう。パートのおばちゃんたちが乗って遊んでいたかどうかは知らないが、乗った人がいたとしたら、集合時間に間に合わない人がもっといたかも?


 団体旅行で唯一とも思える自由時間が途中の昼食だ。三々五々、散歩をしたり、お土産を買い足したり、食事を終えると皆バラバラになる。
 私は、公園内のジャングル・ジムで一人遊んでいた。きっと、時間を惜しんでビールを呑んでいたので、皆散らばった後、一人になってしまったのであろう。


 出発は1時、か2時。
 ジャングル・ジムから駐車場方向、自分ではちょっとお茶目のつもりで、近くの木陰に隠れてバスの動静を見張っていた。
 一人足りないと慌てだしたら、どういうタイミングで、どんな顔をして出て行けば受けるだろうかと、余裕で、芸人のようなことを考えていたのかもしれない。


 ところが、2台のバスは慌てる様子もなく、揃ってスーッと出て行った。
 定刻前の出発であれば、全員揃ったかどうか必ず人数を点呼するはずだから、きっと「時間になったから」という不届きな、理不尽な、団体旅行にあるまじき理由だけで出発したに違いない。


「?」と思いながらも、「時間になったから出たは出たが、あらためて点呼してみたら1人足りなかった」と、途中で大いに慌て出し、全速力で戻って来るに違いないと、暖かい目でバスが去った方向を見守っていた。


 こういう場合、旅行社の対応としては、1台で戻るものだろうか、2台とも連れ立って戻って来るものだろうかと、反省の気持ちの表わし方というものについてじっくり考え、気を紛らわせてみたが、りんどう湖付近一帯のいかにも休日という緩み切った空気には一向に変化の兆しが無い。


 結局、ジャングル・ジムで待つこと1時間? ぐらいだったろうか、とにかく「異変」を察知し始めた。今、この携帯電話の時代、この辺の感覚はわかってもらえるだろうか?


 時は秋、所はぐっと福島に近い栃木県那須、仲間が去って置いてけ堀、気温も心なしか冷えて来る。
 いつまでも一人でここで歳を重ねるわけにはいかないから、公園事務所に行き帰路について問い合わせた。
 こういう観光地で帰りの足を持たないという私の話を終始不思議そうに聞いていた彼らだったが、結局、タクシーを呼ぶしか方法は無いだろうということになった。


 鉄道の最寄り駅は「黒磯」とのこと。
 赤羽に居れば、東北線だか高崎線だかに「黒磯」という名の駅が有る、ぐらいのことは知っている。
 しかし、どんなに近いんだか、どんなに遠いんだか、少なくとも行ったことは無い。
 こんなことで一気に身近になった「黒磯」。東照宮の有る日光よりも全然遠かった!


 若手のホープだったから、多少小遣い銭の持ち合わせも有り、タクシー代も出せ電車賃も有ったので、無事一人で帰って来れた、遠かったけど!


 程無くして、役員で営業部長、こういう機会には宴会部長も務める、カキ沼さん? タチ川さん? アイ沢さん? 忘れもしないあの人から家に電話が入った。
 そして、私が一人でちゃんと家に帰っていることを知り、大変喜んでくれた:
「いやぁ、お前で良かった! 本当に良かった! 置いてきたのが、お前で本当に良かった・・・」
(もう1回だけつづく)