(2) パンダみたいだが、『深圳』は本当は『しんしん』かも?
日本の多くの中日辞典/漢日辞典は、1950年代に大陸で作り出された『ピンイン』と呼ばれるローマ字表記の発音記号を用い、そのアルファベット順に見出しの漢字を並べている。
『ピンイン』がわからない場合は、漢字の部首や画数でももちろん引けるが、慣れれば慣れる程、『ピンイン』引きが圧倒的に早くなる。
さて、そうした環境の中、数少ない例外の一つに講談社発行の『50音引き 基礎中国語辞典』が有る。『50音引き』と題名にもある通り、見出しの漢字は日本語の読みの50音順に並んでいる。
つまり、中国語を知らない人でも、『ピンイン』がいつまでも覚えられない人でも、日本語の音読みだけで漢字を探し当てることができるという実にユニークな中国語辞書だ。
今回、第(2)話では、この辞書に大活躍してもらいましょう、と思っている。
前回(1)では、『深圳』の『圳 - zhen/ㄓㄣ』の『川』は、『川、釧 -chuan/ㄔㄨㄢ - せん』の2字の『川』とは発音が全然違うし、一緒くたにはできないという話をした。
ただ、中国語よりも基本音節が少ない日本語であるから、系統の違う音が結果的に『せん』という同じ音に収斂される可能性も考えられるので、とにかく、『50音引き 基礎中国語辞典』を使って日本語の『せん』から遡り、中国語の発音を見てみることにしよう。
『50音引き辞典』には『せん』という読みの漢字が84字有る。例えば、
『尖、煎、餞、践、僭、…』ら12文字は、 ← 元の読みは “jian/ㄐㄧㄢ”(≒チエン)。
『扇、閃、陝、疝、擅、…』ら12文字は、 ← 元の読みは “shan/ㄕㄢ”(≒シャン)。
『先、仙、線、鮮、羨、…』ら11文字は、 ← 元の読みは “xian/ㄒㄧㄢ”(≒シエン)。
その他、chan(蝉)、qian(千)、xuan(選)等全部で14種類の音節から『せん』という読みへの変遷が有ったことを教えてくれるのだが、残念ながら、元の発音が、『圳』と同じ "zhen/ㄓㄣ”(≒ゼン)であるものからの変遷は1つも無いのである。
今度は、逆に、『圳』と同じ “zhen/ㄓㄣ”の発音を持つ漢字31字(《両岸常用詞典・大陸版》)を同辞典でピック・アップしてみると、
“zhen”→『しん』 17字。“針、真、診、振、震、…”等。
“zhen”→『ちん』 7字。“珍、鎮、朕、枕、砧、…”等。
“zhen”→『てい』 5字。“貞、偵、幀、楨、禎”。(主に、“貞”という旁(つくり)の発音)
“zhen”→『けん』 1字。“甄” (例:甄別=けんべつ)。
“zhen”→『じん』 1字。“陣”。
と、以上のように、詮無いことではあるが、『せん』は無いのであった。
結論(2)
『川、釧 -chuan/ㄔㄨㄢ - せん』と『圳 - zhen/ㄓㄣ』は、初めから全然別の発音であること。
また、これまで “zhen/ㄓㄣ” の字から『せん』の読みが生まれた例が無さそうであること。
そして、“zhen/ㄓㄣ” の字の半数以上が『しん』という読みを持つようになっていることから、
『深圳』は、パンダみたいではあるが、『しんしん』と読むのが正しいのではないだろうか?
次回は、台湾の『嘉南大圳(かなん たいしゅう)』と『二峰圳(にほう しゅう)』の『圳=しゅう』について検討してみたい…
【つづく】
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