松本克のブログ

国立高校の甲子園出場に関する記事でこのブログに巡り会ったので、その辺りのことが中心になるかな・・・

(1) パンダみたいだが、『深圳』は本当は『しんしん』かも?

 中共経済発展の起爆地となった広東省『深圳』経済特区、今や押しも押されもせぬ国際的な大都市だ。
 しかし、デビュー当時、新聞やニュースにその名前が出て来ても、『圳』の字は日本には無い漢字であり、ワープロには出て来ないし、本当に『せん』という読みで良いのかどうかわからなかった。
 見慣れてくると、なるほど、旁の『川』が読みを表わしているのかと、『世界の工場』を象徴する都市として『深圳=しんせん』の名前に自然と馴染んで来た。


 一方、台湾の嘉南平野(かなん へいや)には、日本統治時代、日本人技師・八田與一(はった よいち)が作った巨大な水利施設が有り、昔から『嘉南大圳=かなん たいしゅう』と呼ばれている。同平野を縦横に流れる長さ16,000kmのその水路は、万里の長城以上とも称えられ、日本人が台湾に残してきた誇れる事業の一つである。
 更に、南台湾には、鳥居信平(とりい のぶへい)という技師が作った『二峰圳(にほう しゅう)』と呼ばれる地下ダムも有り、周辺地域への飲用水、灌漑用水の提供に貢献し続けている。
 このように、台湾方面では『圳』の字は『しゅう』で通っている。


 さて、では一体、『圳』という字は、『せん』なのか、『しゅう』なのか、それとも、『両方とも正しい』のか?
 歴史を正視し、万一中共が台湾に侵略してきても、歴史を勝手に書き替えさせぬよう、世界に誇れる日本人の土木工事を正しく伝え続けるためにも、以下、調べてみることにした。


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『深圳』と『嘉南大圳』とでは、日本での知名度は、圧倒的に『深圳』だろうと思われるので、 先ずは、『圳=せん』という読み方について調べてみる。
 偏(へん)が意味を表わし、旁(つくり)が読みを表わすパターンが漢字には多いから、『土(つちへん)』が地理や地形に関する文字であることを表わし、『川』が読みを表わしていると考えるのは極自然なことである。
『河川=かせん』と『根釧原野=こんせんげんや』という2語を見るだけでも、『川』という旁が『釧=せん』という読みを決めているであろうことがわかる。
『川』:[音読み;セン、訓読み;かわ]
『圳』:[意味;田畑に水を送る水路]『土』(大地に作られた)+『川』(水路)で➡『圳=せん』。
『深圳=しんせん』、なるほど、ガッテン、ガッテン!!


 では、次に、その『川、釧、圳=せん』という、あたかも親と二人の子供のような3字の関係を、似たような関係に見える4字『喬、橋、僑、蕎=きょう』と比べてみることにする。


 すると、決定的に違う点が有るのだ!
 それは、漢字一つ一つの固有の発音である。
 後者の『喬、橋、僑、蕎=きょう』の4字の漢語音は全て“喬、橋、僑、蕎=qiáo/ㄑㄧㄠ2”という同一の発音であり、 血液型が完璧に一致している親子にも譬えられそうな関係なのだが、一方、


 前者の『川、釧、圳=せん』の3字の場合は:
“川=chuān/ㄔㄨㄢ  =せん①、
 釧=chuàn/ㄔㄨㄢ4=せん①、
 圳=zhèn/ㄓㄣ4      =せん②” となり、
漢字に固有の発音が、『川』と『釧』の2つの字は同音 chuan だが(抑揚は1声と4声で違う)、『圳』だけが似ても似つかない別の音 zhen である。


 と言うことは、
結論(1) [『圳』にあっては、『川』が読みを表わしているわけではない]ということがわかる。


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[音読み]の世界のことであるから、日本に漢字が入って来た時の日本人の受け止め方の問題かもしれない。
『漢語音 chuan→せん①』と
『漢語音 zhen  →せん②』という変遷パターンがともに存在するとすれば、
[元の発音は違うが、日本人の耳には同じに聞こえたらしく、結果的に同じ『せん』という訓読みになった]、という可能性も否定できないのだが、なかなかどうして、昔の日本人は今の我々よりももっと感覚が鋭敏であった可能性が十分考えられるのである。


 と言うのは、例えば、漢語で“~n”の音で終わる音は、日本語では『~ん』で終わり、
“~ng”で終わる語は、日本語では鼻に抜ける長音『~う』になる等です:
 (例)“銀=yin”⇒『ぎん』、“行=hang, xing”⇒『こう、ぎょう』。


 もし、あなたが“~n”と“~ng”の聞き分け、言い分けに自信が無ければ、あなたの感覚は古代日本人より劣っているかもしれません。
[古代人には、“chuan” と “zhen” が同じに聞こえたのではないか?]などと言うと、大恥をかくことになるかもしれませんよ…
【つづく】