某高野球部「死の千本ノック」…
「痛ましい事故が起きました」というニュースかと思いましたか?
今は真冬、シーズン・オフですから、事故ではありません。御安心下さい。
実は、東京オリンピックを迎えるに当たり、「スポーツ関係の用語の整理を…」と考えていたところに、今回何故か引っ掛かってきたのが、野球の「ノック」なのです。
野球をしたことのない人たちの間で、ほとんどの女子がそうかもしれませんが、「ノック」って知られているものでしょうか?
言ってしまえば、「守備練習のために『ノッカー』と言われる先輩やら監督やらが打ってくれる打球」のことで、百球も千球も追い駆ける「百本ノック」、「千本ノック」は猛練習の代名詞ともなります。
言葉の使われ方としては、「ノック(を)する、ノックを受ける、ノックをしてもらう」等々です。
「ノック、ノッカー」ですし、やはりバットで球を打つわけですから、ドアを「ノック」するとか、「ノック・アウト」、「ノック・ダウン」の“knock”という英語だろうと思いますよね。
実際、東方書店発行の『最新日中外来語辞典』では:
ノック 〖knock〗 …「打つ、叩く、ドアをノックする」
ノッカー〖knocker〗…「門環、ドアノッカー」
のほかに、それぞれに[棒球]の用語(※「野球用語」の意)として使われる場合の訳語が書かれています(後述)。
ところが、実は、私が今回一番驚いたのはそれなのですが、野球で使われる「ノック」は、英語では“fungo”という語であり、“knock”という語を当てるのは「和製英語」だそうです。
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“fungo”〘野球〙
1ファンゴー:練習でノックする人が、自分で空中に投げて落ちてくるところを打つボール。
2ノックして打った打球(特にフライ)。
3(またfungo bat)ノックバット:普通のバットより軽く、細長い。
-小学館ランダムハウス英和大辞典-
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以上、ノックバットも“fungo bat”と言うそうですから、語源ははっきりしないようですが、“knock bat”も和製英語ということになります。
さて、メインは中国語の話です:
★小学館『日中辞典』
ノック 1敲打 2敲門 3<野球>(為練習防守)打球
ノッカー 1門環, 門扣 2<野球>(為練習防守)打球的人
★Canon wordtank690(講談社『日中辞典』)
ノック 1敲門 2<野球>(在防守練習中)擊球
いずれも、「守備(防守)練習のため」ということが明記されているので、誤解のしようが無いと思いますが、前述の東方書店発行『最新日中外来語辞典』は、「著者・史群、遍者・北京商務印書館、東方書店」となっており、ほぼ中国製ですから、やはり、野球のことは知らないのでしょう。
はっきり言って、野球に関する部分は間違えています。
×東方書店『最新日中外来語辞典』
ノック 〖knock〗 敲打, 打擊, 碰撞;敲門;[棒球]打球練習;[足球](守門員)用拳擊球
ノッカー〖knocker〗門扣, 門環;[棒球]自扔自打的擊球者
「ノック」はバッティング練習ではありません。
また、「ノッカー」は、テニスのサーブのように、自分で球を上げて自分で打つことに間違いは有りませんが、「守備練習のため」という目的が最重要ですから、そのことに触れない説明は大いなる欠陥だと思います。
サッカーにも「ノック」の語が有り、「ゴール・キーパーが拳で球を弾くこと」という説明がされていますが、門外漢の私は聞いたことがありません。
ついでと言うか、行き掛けの駄賃と思い念の為調べてみると、またまた意外な展開…
「松本GKコーチが野球のノック練習さながらにサッカーボールを打ち、選手が反応」:
https://hayabusa9.5ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1516113853/
「ユニークなのはシュートを打つ役割である松本拓也GKコーチだ。足で蹴るのではなく、野球で使用するバットを手にして、ノック練習さながらに打っているのだ。
バットから放たれたサッカーボールは強烈なスピードで打ち抜かれつつ、壁にぶつかることでシュートコースが変わる。これに対して中村らGKは、素早くセーブするという練習を繰り返している。」
まさか、こういう特殊な情報が中国側の辞書の作成者に伝わって野球の「ノック」と結び付いたとは考えにくいのですが…
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