松本克のブログ

国立高校の甲子園出場に関する記事でこのブログに巡り会ったので、その辺りのことが中心になるかな・・・

キラキラ・ネーム と カタカナ語(4)

 さて、外来語の輸入審査が甘い日本と比べ、漢字のみの国では外来語をどう処理しているのでしょうか、中国を例に見てみましょう。


 基本的に中国人はローマ字が苦手で、ローマ字をそのまま引用することはまず有りません。ということは、あとは漢字しか有りませんから、外来語らしき耳慣れない言葉を聞いた時は、その発音に近い既知の漢字を繋ぎ合わせて「万葉仮名」方式で書き留めるしかありません:


 誰かが何かを持って来て「これは “koala” だ」と言ったとします。


1)ローマ字が苦手な中国人は、たとえそれに近い音に聞こえたとしても “koa-la” という音標表記で書き残すことはしません。


2)“koa” という発音は中国語音には無いので、近い音に寄せて考えます。


3)“la” と “le” は事実上ほぼ同音になる場合が有ります。


4)同じ音に聞こえたとしても人によって当てる漢字が違うことは極普通のことでしょう。
 “kao-la” に近いと聞き取った人は、“靠拉=kào lā” と書くかもしれないし、 “拷辣=kǎo là” と書くかもしれません。
 また、“kou-le” が一番近いと思った人は “叩了=kòu lė” と書くかもしれません。


 2音節や3音節の外国語を初めて聞き、とっさに記憶の中から発音の近い漢字を引っ張り出して寄せ集めるわけですから、多くの場合は意味を成さない文字列が出来上がります。
 ですから、「〇〇さんが “靠拉” を持って来た」とか、「“叩了” を持って来た」とかのメモ書きを見せられても、実物とセットで見せられたのでなければ、あくまでチンプンカンプンです。


 食べ物の話なのか、アクセサリーの話なのか、動植物の話なのかさえわからないというレベルで、「〇〇さんが持って来たのは、オーストラリアの『コアラ』、つまり “樹袋熊=shu dai xiong” です」と聞いて、なに熊の話?、動物の話だったのかと初めてわかるわけです。


「コアラ」一つを取ってもこうですから、外国語を音で受け入れようとする場合、人や地方や時代により漢字表記にブレが生ずることは必定であり、恐らくそういうこともあって、音訳系のいかにも “外来語” といういつ消えてしまうかわからないような新語の氾濫が抑えられているのだろうと思われます:


一、漢語名;“樹袋熊=shù dài xióng”(樹上生活をする有袋類の熊)
(※但し、通常、台湾及びシンガポールでは “無尾熊”、香港では “樹熊” という)


二、外来語名;“考拉=kǎo lā”(英語名 “koala” より)
(※「万葉仮名」の類の表記方法であり、漢字の意味は考慮の外である)


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 ついでと言っては何ですが、漢語のウイキペディア(漢W)と日本語のウイキペディア(日W)で「コアラ」の項を見ていて、その記述の違いに愕然としました:


(漢W)(見出し)無尾熊
    (説明) 樹袋熊 音訳 考拉(英語:Koala)
         無尾熊科 無尾熊属 無尾熊種


(日W)(見出し)コアラ
    (説明) 別名 コモリグマ(子守熊)又は フクログマ(袋熊)
         コアラ科 コアラ属 コアラ種 和名コアラ


(漢W)では、見出しの「無尾熊」も、説明として言い替えている「樹袋熊」も、ともに漢語名ですが、(日W)では、日本語名とも言うべき「子守熊」「袋熊」は『別名』とされ、種属名から何から何まで「コアラ」、挙句の果てに「和名コアラ」とは…悪い冗談としか思えません。


 化粧品等の高級イメージ商品から始まったといわれるカタカナ語の濫用は、止まる所を知らず、家庭の隅々にまでも侵入を続けています。
 初め『天火』と呼ばれていた西洋料理用加熱調理器具が、ある時、『オーブン』と名を変えて現れてきた時、誰も二つが同じ物であることに気が付かなかったとか。
 そして、今や、「やかん」は『ケトル』になってきました。
 いかに実害が無いとは言え…


(完)


(参考)
キラキラ・ネーム と カタカナ語(3):https://tmatsumoto.muragon.com/entry/452.html
キラキラ・ネーム と カタカナ語(2):https://tmatsumoto.muragon.com/entry/451.html
キラキラ・ネーム と カタカナ語(1):https://tmatsumoto.muragon.com/entry/450.html